リケジョ的教育のすすめ

京都大学工学部で学び、現在は京都大学で働く正真正銘のリケジョ。中学受験と大学受験を経験した子どもたち、一緒に研究をしている学生から得た教育の極意を伝授します。

【京大理系研究室】大学生の不登校問題

京都大学ノーベル賞受賞者数が東京大学に追いつく

 京都大学工学部出身の吉野彰さんがノーベル化学賞を授賞されました。現在の工業化学科ご出身です。京都大学工業化学科の同窓会組織である工化会では、毎年講演会を開催していて、5年前の講演会で吉野さんはリチウムイオン電池について熱く語ってくださいました。その時から、今年はノーベル賞くるかも?みたいな機運でしたので、関係者の皆様としてはようやくという思いだったのではないでしょうか。

 来月京都で開催される第60回電池討論会では、吉野さんのノーベル賞受賞記念講演がおこなわれます。ビッグなゲストに、参加を予定している同僚は喜んでいます。

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せっかく大学に入ったのに不登校

 ノーベル文学賞、平和賞を除いて純粋に研究の結果としてのノーベル賞を考えると、京都大学のほうが多いのです。研究環境として、京都大学の自由な学風がいいのでしょうか。何をするにしてもおおらかです。私が学生をやっていたころは中核派が建物を占拠していて授業ができないとか相当ぶっ飛んでいましたね。講義が始まる直前にヘルメットかぶって角棒を持ったお兄さんたちがゾロゾロ入ってきて追い出されたこともありました。そんなことはさすがにもうありませんが。普通は怒られるでしょと思うようなことも、経験として処理されます。外国で飲みすぎて救急車で病院に運ばれた学生も、パソコンをすられた学生も、パスポートをなくした学生も、「おまえアホやな。」で終了。経験を積んでたくましくなった=成長なんです。好きなことを好きなようにさせてもらえる環境は整っています。

 ところが、晴れて京大生になった若者がみんな自由な学風を楽しんでいるわけではなく、精神的にしんどくなって大学に来れなくなる人が少なからずいます京都大学の留年率は1割。好きなことやっていて留年、退学する人はいいのですけどね。大半はそうではなくて、病んでいます。

精神のよりどころを探す

 ラボに学生を20名ほど抱えていると、毎年1~2名は注意をしなければいけない学生がいます。世間一般と比べてちょっと多い印象ではないかと。不調になるのが自分でもわかって、カウンセリングに行ったり休んだりしてくれると安心なのですが、突然ブチっと切れてしまうケースが多いです。メールを送っても電話をしても接触不能だと、下宿まで出向くこともあります。睡眠薬を持ち歩いている学生なんかは、死んでいないか本当に心配になるので。誰かが気にかけ続けることが、彼らにとっては生命線なのです。これを決して切らないというのが、経験値をあげた私のミッションです。自ら命を絶った学生や卒業生の葬儀に参列するのがどれだけ辛いか。

 私のいるラボを卒業して、大学院は別のラボに進学した学生が3ヶ月間ほど不登校になっていると連絡がありました。教員がメールしても電話してもダメ、秘書さんが電話してもダメ。何とか連絡つかないだろうかとヘルプです。私が、「しゃべりに来ない?」と連絡したら、その日のうちにやってきましたよ。もともとメンタルが弱くて、休みがちなことは事前に伝えておいたのですけど、風通しのいい関係は築けていなかったということですね。話を聞くと、決定的に心に打撃を与える出来事があって、行きたい気持ちがあっても行けない状況に陥っていました。そんな状況を打開するのも教育者の仕事なんですけど。研究は一流でも、そのへんは下手くそな教員が多いですわ。へこたれた気持ちを吐き出す場所があるだけで、リセットできることがあります。

 サポートの必要な学生が、自分で課題を認識して何とか自立できるよう、私もかかわり方のレベルをあげていきます。

今日のひとこと:不登校学生を支える周囲のかかわり方ひとつで状況はかわる(こともある)