リケジョ的教育のすすめ

京都大学工学部で学び、現在は京都大学で働く正真正銘のリケジョ。中学受験と大学受験を経験した子どもたち、一緒に研究をしている学生から得た教育の極意を伝授します。

【京大理系研究室】ヘリウム危機

実験用のガスはガスボンベで購入

 LPG(プロパンガス)を使っている家庭では見かける、大きなガスボンベの形で大学でも実験用ガスを購入します。窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、二酸化炭素、調整空気、その他混合ガスなど。一番安い窒素が7m3サイズのガスボンベ1本7,000円、高額なのは水素で33,000円。組成を指定して充填してもらう混合ガスは20万円くらいします。よく使うガスだと、2日で1本なくなります。

 ちなみに、一般家庭で使うプロパンガスは地域差があって、10m3で7,500~9,500円です。都市ガスと比べると、かなり高額。プロパンガスは都市ガスの2倍の熱量があることを考慮しても、やっぱり割高です。充填や運搬など人件費がかかりますからね。

 満タンのガスボンベは、14.7 MPa(150気圧)もの高圧で充填されます。なので、頑丈にできていて結構重たいですよ。このボンベを、ガス会社のお兄さんは首のところを持ってコロコロと上手に転がして運びます。つわものになると、二本を両手で持って、足で交互に蹴飛ばしながらクルクル転がして動かすのです。すごいわー。ボンベが傾いたら自分も一緒にこけそうなので、私は触れません。

 ガスが噴き出す可能性がある方向には決して立たないとか。二重にチェーンをかけるとか。支燃性ガスと可燃性ガスは一緒に置かないとか。可燃性ガスはシリンダーキャビネットに保管するとかいろいろ決まっていて、万が一のことも起きないように細心の注意を払っています。

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ヘリウムという物質

 そのなかのヘリウムの話。沸点がマイナス269度と最も低いヘリウムは、電気抵抗がゼロの超電導技術に欠かせないものです。2027年に開業予定のリニア中央新幹線超電導磁石に使用され、磁気共鳴画像装置(MRI)や半導体製造などにも使われています。一般的にはドナルド声になるガスとか飛行船や風船用ガスとしての方が知られているかもしれませんね。

 ヘリウムは大気にわずかしか含まれておらず、天然ガス産出時の副産物として分離、精製されます。アメリカのほか、ロシア、カタールなど、なんと6カ国でしか作られていないのです。アメリカは、全世界の貯蔵量の約3分の1を蓄えていて、冷戦時の宇宙開発競争の中で大量に備蓄されたヘリウムが2015年までの期限付きで民間へ払い出されました。今後は、NASAなど政府が関係する機関でのみ使われます。

ヘリウムショック

 中国で半導体工場が次々に稼働し始め、ヘリウムの取り合いが始まっています。アメリカ土地管理局(BLM)の民間への払い出しが終わり、昨年はエクソンの設備トラブルで供給がストップし、カタールで昨年中に稼働するはずだった大型ヘリウム製造プラントが遅れていてと、ただいま三重苦の状態。しばらくはヘリウム不足で半導体業界がアップアップしそうです。2012年にヘリウム不足のためにディズニーランドでのバルーン販売が中止になった騒ぎがありましたが、どうも再び販売中止になっている模様です。研究室でも入手が難しくなってきました。これまで、1本16,000円で購入できていたものが倍の値段になりそうです。年が明けて、卒業を控えた学生たちの実験がピークを迎えるときに納品待ちと値上げでダブルパンチです。

今日のひとこと:今年はヘリウムの需給バランスが崩れる年