リケジョ的教育のすすめ

京都大学工学部で学び、現在は京都大学で働く正真正銘のリケジョ。中学受験と大学受験を経験した子どもたち、一緒に研究をしている学生から得た教育の極意を伝授します。

【京大理系研究室】データに基づいた正しい知識をもつ

www.ted.com

ファクトフルネス

 TEDトークで人気のスウェーデン医師であり公衆衛生学者のハンス・ロスリングの「FACTFULNESS」の日本語訳が発売されました。早口ながらわかりやすい英語で、グラフ、写真を多用してアグレッシブに聴衆に訴える話は引き込まれるものがあります。古い常識にとらわれていて、物事は変化していることを人々は受け入れられていないと言っていますね。昨日話題にした中学入試の英語科目導入に関しても、年々変化していることを受験生を取り巻く人たちは知っておかなければいけません。

 残念ながらハンスは本を完成させることなくこの世を去り、息子のオーラと息子の妻アンナが引き継ぎました。本の中でも教育レベルの高い人でも事実に基づいて世界を理解していないと警告をならしています。チンパンジーが選んだら33%は正解するものが、20%程度しか正解しない質問が多数あり、人はいかに「ネガティブ本能」や「過大視本能」で物事を判断しているかが明らかになっています。

 3人で集めたという膨大な量のデータは目を見張るものがあり、裏表紙にある所得と平均寿命の関係を示したチャートはこれだけでスゴいです。

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が、もっとスゴいのはここから。最新バージョンはwebで見ることができます。

https://www.gapminder.org/whc/

 1800年から2018年までのデータが蓄積されているんですね。

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こんな感じで、いろんなことを調べてデータとして残しています。見せ方がまた上手で、これはアンナの功績のようです。

 一日の稼ぎが1ドルのレベル1の人たちは、世界に10億人います。食糧の確保が日々の課題で、水はバケツでくみに行かなければ得られない状況です。一日の稼ぎが4ドルのレベル2の家庭には、電気が通り始めます。世界に30億人。レベル3では一日の稼ぎが16ドルに増え、冷蔵庫やバイクが買えるようになります。20億人。レベル4は一日32ドルの稼ぎ。旅行の際には飛行機に乗り、蛇口からお湯がでる生活が送れます。10億人。このくらいは知識としてもっていて損はないです。

チンパンジーに負ける問題

 試しに少しやってみましょうか。

1.低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を修了するのか

 A 20% B 40% C 60%

2.世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は過去20年でどう変わったか

 A 2倍になった B 変わらない C 半分になった 

3.世界の平均寿命は現在およそ何歳か

 A 50歳 B 60歳 C 70歳

4.自然災害で亡くなる人の数は、過去100年でどう変化したか

 A 2倍以上になった B 変わらない C 半分以下になった

5.世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対する予防接種を受けている子どもの割合は

 A 20% B 50%  C 80%

正解は、全てCです。2問だけの正解であれば、チンパンジーといい勝負です。他の問題にも興味があれば、図書館で予約してみてください。それよりはTEDトークを聞いている方が面白いですよ。同じような話が登場しますので。リンクに貼ったものは日本語字幕付きですし、プレゼンの最後では剣飲みのパフォーマンスを見ることができます。

思い込みが間違った解釈に導く

 チンパンジーに負けるということは、確かにネガティブ思考が働いていて、恵まれない人がたくさんいるとか世界は悪くなっているとか勝手に思っているのでしょうね。災害や事件は大きく報道されることがあっても、いいことはなかなかニュースになりませんから。それに、あの頃はよかったと過去は美化されやすいですし。がんの生存率があがったとか、電気や安全な飲料水が利用できる人が増えたとか、携帯電話が普及したとか世界はよくなっているはず。全自動洗濯機やお掃除ロボット、食洗機など、ちょっと前までなかった家事お助けマシンのお陰で楽ができる人も増えていますよね。いや、家事に時間がかからなくなった分、外で仕事をするようになって、どっちもどっち状態の可能性大です。

 ボスは常に「データを見せろ。数字で示せ。グラフを描け。」と言っています。研究者でなくても、事実に対しては余計な考えを挟まず、ピュアな目で見つめないといけませんね。

今日のひとこと:極端な例で全てを判断してはいけない